hisnd's blog

20代。海の近くの街育ち。

c'est la vie 5

一度だけ母が泣いているのを見たことがある。

 

母は笑い始めると自分が笑っているという状況自体を笑ってしまって笑いが止まらないような笑い上戸で、明るく笑顔が耐えない人で、だからこそ、涙を見たのはあれが最初で最後だった。

 

それに、あのときは、どうして母が泣いているのかわからなくてとても驚いた記憶がある。

 

晩御飯を食べ終えて居間のソファーで隣同士座り母が入れてくれた緑茶をのみながら、その日学校であったことなんかをしゃべっていた。居間のテレビではイタリア特集のバラエティ番組が流れていて、いつもと変わらない平日の夜だった。

母が若いときバックパッカーをしていたのは知っていたから、「イタリアに行ったことある?」ときくと「あるよ。」と母から返事が返ってきた。「いいなー。どうだった。」と聞き返したものの、それに対して返事はなく、母はどこか上の空で、珍しくテレビに見入っていた。ローマの特集だった。その時旬の芸能人がおしゃべりしながら街を歩くといったようなありきたりな内容だった。そして、場面がパンテオンに移った時だった。最近世界史の資料集で見かけたやつだと、すかさず「ここもいったことある?」そう聞こうと隣の母を見たとき、私は母の目から涙がスーっと落ちるのを見た。驚いて見間違いかなと思ったが、母の頬に涙が一筋通った湿った跡が見えた。

母は私の視線に気づいたのか急にスッと立ち上がり何も言わず、流しの方に移動した。私自身、何故、母がイタリア特集のバラエティ番組で涙ぐむのかがわからず、だけど、その様子に理由を聞くのが何となく怖くて、動揺したままテレビをぼうっと見ていたのを今でも覚えている。

 

そして、今。

今回の私のローマの旅でいくつかのことが繋がってきている。

私は目の前の道を歩くトマさんにパンテオンと母の関係を聞きたくなっていた。だけど、同時になんとなく聞いたらいけない気もしていた。