hisnd's blog

夢は海辺でぼんやり海を見ながら暮らすこと。

c'est la vie 2

コロッセウムまでトマさんの後ろをついて歩く。

とても不思議な気持ちになる。時差を抜きにすれば昨日の同じ時刻、つまり5月20日のお昼頃、私は神戸にある高校の食堂で友達の絵美里達とお喋りしていたのだ。それが、今は知らない初老の外国人を追いかけてローマはコロッセウムに向かってる。海外旅行自体2回目で一人旅に至っては初めてで、持ってきた貴重品の入った肩掛け鞄の肩紐を持つ手は手汗で湿って緊張を実感するけれど、同じ青空のはずなのに何か違う澄んだ感じのあるローマの青空の下で私はとてもワクワクしていた。

 

「あんな、私今日の夜から1週間、ローマに行くことななったから、その間のノート頼んで良い?もちろん、出来る範囲で良いし、お土産弾む!」

私は食堂の机で向かいに座る絵美里に向かって両手でお願いのポーズをした。

「へ、ローマ?てイタリアの?え、なにゆーとぉ?そんな冗談全然おもんないで笑。」

「ちゃうねん。がちやねん。ほら。」

私はパスポートと航空券を周りから見えないようにブレザーと手で隠しながらそっと見せる!

「え!ほんまなん!?めっちゃ羨ましい!!」

「ちょっ、声おおきいよ!これ秘密やねん。期末前にローマ1週間とかふざけとうやろ?そやから、私明日から風邪引くことになるから。月曜の期末から戻ってくる。」

「なにそれ。めっちゃかっこ良いんやけど、私もそんなん言いたいわ。ノートは任せといて!お土産はまた考えてLINEするわ!てかなんで急に?めっちゃ色々ききたいことあるねんけど!」

「んー、最近あれあったやん?その関係?お母さんがローマでどうしても会って欲しい人がいるらしくて。」

「あ、それはいかなあかんね。やし、その急な感じおばちゃんらしいよね。なんか映画みたい!笑」

「そんな良いもんかな。私一人で海外とかはじめてやから不安しかないわ。パスポートも忘れそうやから朝からずっと腹巻きの中いれてんねん。」

「うける!」

チャイムがなる。

「やば、次、重井さんやん!遅れたらやばいで!また話聞かせてよ!LINEする!」

高三になってからクラスが離れた私たちはそれぞれの教室に走る。

とりあえず、絵美里に休み中のノートお願いする件は、ミッションインコンプリート。

 

それからはあまり覚えていない。これからの行程を必死に反芻しながら上の空で授業を受け、ダッシュで家に帰り、空港行きのバスに飛び乗り、空港についてからは今まで使ったことのないコミュ中を発揮し人に搭乗口までの行き方を何度も確認し、やっと飛行機の座席で一息つく頃には必死すぎて緊張していたのだろうか爆睡してしまった。おかげで二回もあった機内食を食べれなかった上、楽しみにしていた映画もちゃんと見れなかった。

 

ぐぅ。

トマさんと会って緊張がとけたのか。

自分のお腹が猛烈に鳴り、日本を出てからまともに食べていないことに気付く。

 

トマさんが振り返る。この人いつも笑顔だ。口角が上がってる。

「お腹すいてる?」

「yes!」

出会ってから一番大きな声をだし、その必死さに恥ずかしくなる。

トマさんはまた思いきり目尻に皺を集めて笑う。この人の笑い方好きだなぁ。一瞬ボーッと見つめてしまう。

「~~大丈夫?」

英語は集中していないと聞き取れない。今トマさん大丈夫の前になんか言った!

「sorry、もう一度お願いします。」

「ははは、真依も食いしん坊なんだね。ほんと真弓と似てるね。ピザは好き?」

恥ずかしかったもののピザは大好物!

「yes!!」

とまたおおきな声で答える!

「c'est cool!」

たぶんフランス語でトマさんが答える。

私がトマさんについて知っていることは母の古いフランス語を話すベルギーに住む友人であることだけ。一体、トマさんは何者なんだろう。母とはただの友人だったのだろうか。

旅立つ前、母からパスポートと搭乗券を渡された時、母の目が一瞬潤んでいたような気がしたことを思い出す。